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2020年12月10日 (木)

ジェット気流が夜空を闊歩する時刻

 今日は学生時代、私が深夜、楽しみに聴いていたラジオ番組に関する詩(ポエム)をお送りします。 

「ジェット気流が夜空を闊歩する時刻(とき)」

八十年代 僕が大学生活を送っていた頃

世間はバブルの絶頂期 人々は身も心も潤い 飽食の時代とまで云われた
そんな物がありふれた日常にあって
僕が欠かさずに聞いていたFMラジオの長寿番組があった

午前零時 誰もが寝静まった夜半に 80.0MHzにダイヤルを合わせれば
そっと流れてくる癒しの音楽 そして魅惑の世界へのいざない

その人はラジオの向こう側から異国のBGMに乗せて
独特の低い口調で リスナーにせつせつと語りかけてきた
心を酔わせる甘い囁きは 星の輝きにも似た煌く夢の欠片たちを優しく包み
やがていつもと変わらぬナレーションが この胸をときめかせる

Plane2

「遠い地平線が消えて ふかぶかとした夜の闇に心を休める時
遥か雲海の上を音もなく流れ去る気流は 限りない宇宙の営みを告げています
満天の星をいただくはてしない光の海を ゆたかに流れゆく風に心を開けば
きらめく星座の物語も聞こえてくる 夜の静寂のなんと饒舌なことでしょうか
光と影の境に消えていった遥かな地平線も 瞼に浮かんでまいります・・・」

Plane3

その番組の趣旨は 日本にいながらにしてさまざまな国々の街角を旅し
異国情緒を存分に満喫できるところにあった
彼がコックピットで奏でる言葉のメロディーに 乗客たちは酔いしれて
やがて安らぎを覚え まことしやかな憩いのひとときを見出す
いつしかジェットストリームの虜になっている自分自身がいることに気づかされる

まるでリスナーは雲の上を漂う夜間飛行をナレーションと共に追体験する
そして機内の窓辺では 星屑たちが夜空を乱舞し まばゆい光の渦を演出する
心地よい銀河の子守唄に 過ぎ行く時間は太平洋上で一日の元に舞い戻る

Plane1


当時 暇を見つけては旅に繰り出していた自分の生き方と相通ずるものがあり
詩をしたためながら 好んで聴いていた至福の一刻(ひととき)

しかし物の道理には 初めがあれば いつかは終止符を打つ時が必ずやってくる
彼は声優の魂(いのち)ともいえる喉の病を患い 四半世紀務め上げてきた
機長の座を降り 後進に道を譲ることを余儀なくされた 1995年暮れのことだった

彼のフライトでは エピローグはいつだって穏やかだった

「夜間飛行のジェット機の翼に点滅するランプは 遠ざかるにつれて
次第に星の瞬きと区別がつかなくなります
お送りしておりますこの音楽も美しく あなたの夢に溶け込んでいきますように
また明日 午前零時にお会いしましょう・・・」
それが決まりごとになっていた いつもの約束のメッセージだった

そして最終フライトで彼の遺した最後の言葉は その後語り継がれる伝説となった

「25年間 わたくしがご案内役を務めて参りましたジェットストリームは
今夜でお別れでございます 長い間本当にありがとうございました
またいつの日か 夢も遥かな空の旅でお会いしましょう
では皆様 さようなら よいお年をお迎えください」

その時彼は 自分の死期が近いことを悟っていたに違いない
そして操縦桿を静かに置いてから わずか二ヵ月後の翌年二月 
新しい時代の夜明けを迎えることなく 僕たちに見果てぬ夢とその美声を残し  
彼は永遠の眠りに着いた 享年六十三

Plane4

ジェットストリーム それは心地よい夜の静寂へといざなう音楽の定期便
その後彼の遺志は受け継がれ 午前零時の同じ時刻に今もフライトは続いている

世相とはまるで無縁の天上夢幻の世界 ジェット気流が夜空を闊歩する時刻
彼は今夜も 世界のどこかの空を旅していることだろう

 

これは私のペンネーム「風越波海」の詩集から抜粋したものです。BGM入りのものをご覧になりたい方は下記をクリック願います。

「風越波海の世界 ジェット気流が夜空を闊歩する時刻」

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